社会学からの初めてのアプローチ!
ペットは自我形成に影響を及ぼす他者となりうる |
研究テーマ「人はペットに何を求めるのか? 飼主はなぜ飼犬に似るのか?
−日本におけるペットの存在意義に関わる社会学的考察−」 |
ペット関連記事のマスコミへの露出はここ数年急増しています。コンパニオンアニマルという言葉も定着してきました。人間と、その人間が飼育する動物との関係は変わろうとしています。東京大学大学院で社会学を学ぶ新島典子さんの研究は、そんな時代をとらえ、社会学・自我社会学の観点から人間とペットとの関係性やペット観を分析したものです。社会学によると、人間の自我は他者との相互作用から形成される、といいます。しかし、これまで自我社会学の分野では動物が自我形成に影響を及ぼす他者と見なされていませんでした。動物は、人間と言葉を通じたコミュニケーションがとれないため、自我形成に影響する重要な他者とは言えない、というのがこれまでの多くの主張だったわけです。ただ、言葉は必須とは言えないという先行研究も発表されています。言葉でのコミュニケーションがなくても、母親と乳児は情緒的な関係を築くことができます。これは見つめること、見つめられることにより感情的な絆が生まれるから、というのがこの研究の論拠です。しかし、動物を他者と認める研究はまだ1例も報告されていません。「動物も自我形成に影響する他者となり得る」という新島さんの研究は、自我社会学の視点からペットを研究するはじめての、画期的な取り組みなのです。
まず、新島さんはペットの存在意義についての調査を発表しています。雑誌論文記事の動物関連キーワード検索によると、96年度に95件だった動物という言葉は99年度679件、96年度に5件だったペットという言葉は101件と著しく増加。97年度まで1件のヒットもなかったコンパニオンアニマルという言葉も98年度以降、5件のヒットを記録しています。また、背景要因として現代社会についても言及しています。
「拡大・変容し続けている現代社会では、これまでの常識から想像できない問題的な状況にぶつかる機会が激増しています。そんな問題的状況のもとでは自分がある対象について有するリアリティが他者がもつリアリティとずれてしまう。同じ飼い犬に対してかわいい子供の一人と受け止めている人もいれば、近所との関係が悪くなった騒音の要因ととらえる人もいる。これが相互にぶつかるときをリアリティ分離といい、そこでは他者との相互作用から形成される自我は危機に陥りやすくなり、その結果、人間関係における疲弊感が増し、つらさ・生きがたさが募るというわけです」
新島さんは20〜70代のペットの飼い主・元飼い主30人に個別聞き取り調査を行い、その関係性やペットをどう見ているかという内容を分析しています。これまで、ペットを人間の代わりに溺愛する飼い主や、その反対に飼育動物の権利を考えずモノとして扱う飼い主などが何かと問題にされていました。しかし、調査の結果、「擬人化」「モノ化」だけでなく、飼い主とペットとの関係性は一般論的な理解が困難なほどさまざまでした。
「ペットの存在意義は、人により、状況によりさまざまなリアリティが同時に付与される可能性も少なくないことがわかりました。動物は動物として、人間の代替ではなく別個の存在としてとらえること、ペット自体を存在の他者として対等に見る関係性が必要だと考えます。人は動物に対して、社会的優劣とは離れ、素直に接することができるため、動物が自分に対して反応すると耳を傾けることができ、自我形成に多大な影響を受けることが考えられます。対等な存在感を持つ存在ゆえに、飼い主が飼い犬の行動を受けとめ、それによって飼い犬に似る、という局面もありえてくるのです」 |
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