人と動物の関係学 CAIRC奨学金プログラム これまでの論文趣旨
これまでの論文趣旨
“ペットの癒し効果”を科学する
ペット飼育は“高齢者の予防医学”にも効果的!
研究テーマ「ペットが高齢者の健康に及ぼす効果
-臨床生理学的アプローチを中心に-」
研究責任者:酪農学園大学獣医学部 本岡正彦
 研究者:酪農学園大学獣医学部 Nell L,Kennedy
 群馬大学医学部保健学科 小池弘人
 群馬大学医学部保健学科 横山知行
 

近年、我が国の保健医療の大きな課題の一つに少子高齢化社会の進行にともなう高齢者の健康問題がある。高齢者が健康に生活を営むため、または予防医学のひとつとして、ペットと暮らすことで受ける健康面での恩恵が注目されつつある。

ペットが人に与える効果について、よく「癒し」という表現が用いられる。私たちは日々の生活の中でペットに心を癒され、日々のストレスをやわらげている。では「癒される」と言うことは、如何なる生理的な変化であろうか。

「ペットが人の心を癒し、人の健康増進にも深く関わっているのではないだろうか」という疑問を科学的に検証する、いくつかの研究がある。1980年Friedmann博士らは、ペットの飼い主が、飼い主でない人よりも心臓病退院1年後の生存率が高かったことを報告した。その後、ペットの飼い主の方が飼い主でない人よりも血圧が低いことや、血液中の中性脂肪なども低いことなども報告されている。これらの研究報告から、現在提唱されている人がペットから受ける健康上の恩恵には2つの仮説がある。仮説の一は、飼い主がペットと共に運動することによる健康への効果。仮説の二は、ペットそのものがストレスを軽減するという健康への効果である。しかし、その真意や詳細なメカニズムについては今なお不明である。

人の体の様々な機能は、神経系と内分泌系(ホルモンと呼ばれる)によって調節されている。神経系には人の意思により制御できる神経(運動神経や感覚神経)と、意思により制御できない自律神経系の2種類がある。さらに自律神経系には相反する作用を持つ交感神経と副交感神経がある。例えば、心臓を例に取ると、交感神経が働くと心拍数は増加し、副交感神経が働くと心拍数は低下する。これら自律神経は全身の臓器に分布し、交感神経が働いている時は「猫が恐怖で緊張しているような状態」と例えられる。逆に副交感神経が働いている時は「猫が縁側でゴロゴロのどを鳴らしながら寝ているリラックスした状態」のイメージである。

今回、私たちはコンパニオンアニマル リサーチの研究サポートを受け、犬が人に与える効果を自律神経の変化という面から検討した。第1の研究では健康な高齢者(男女13名:平均年齢67.5歳)に、犬との散歩を30分行い、その間の自律神経活性の変化を測定した。また、この犬との散歩を3日間連続で行い、自律神経活性の変化を測定した。第2の研究では高齢者(女性4名:平均年齢71.0歳)に自律神経解析装置を6時間装着し普段の生活を過ごしてもらい、その間2回の犬の訪問を実施し自律神経活性の変化を測定した。

犬との散歩による自律神経の変化については、単独の散歩と犬との散歩を比較すると、副交感神経活性は犬との散歩の方がより高かった(図1)。また、3日間連続で実施した犬との散歩では回を重ねるごとに、副交感神経活性値は増加し、交感神経活性値は抑制された。

さらに、高齢者が日常生活を過ごす中で犬の訪問を2回実施した研究では、犬の訪問に一致し、かつ訪問時のみに副交感神経活性値が高いことが観察された(図2)。注目すべき点は、犬が訪問した普通の生活時(非運動時)と犬との散歩時(運動時)を比較すると、犬と過ごす非運動時の方が、副交感神経活性値は高く、交感神経活性値は低いと言う結果が得られた点である(図3)。

これらの結果が示すところは、犬の存在そのものが人の自律神経に影響を与えると言う可能性を示唆している。むろん、犬との散歩は楽しく運動できると言う点で、運動による健康上の効果も期待できる。しかし、今回の研究から犬が人に与える効果は、犬そのものにあると言う可能性を示唆している。つまり、現在提唱されている人がペットから受ける健康上の恩恵についての2仮説のうち、今回の結果からはペットそのものがストレスを軽減すると言う仮説がより強く支持できるのではないだろうか。

では、犬と触れあうことが如何にして自律神経の変化を招くのであろうか。近年の研究報告によると、人が犬と接した感覚は大脳皮質へ入り扁桃体から視床下部・中脳をへて自律神経系へと伝わることが報告されている。つまり、ペットが人に与える効果について、様々な学問分野の研究が加わり、科学的にその詳細が解明されつつある。

ともかくも、ペットと過ごすことで副交感神経がより働けば、ストレスを緩和し、様々な疾患を回避し、高齢者における予防医学的観点からも有用であることは疑いのない点であろう。最後に、人が動物とともに健康な生活を送るために実施される数々の研究をサポートされ、本研究においても多大なるサポートを頂いたコンパニオンアニマル リサーチに深く感謝致します。

図1

図2

図3
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