人と動物の関係学 コンパニオンアニマルの効用 コンパニオンアニマルとしての犬と猫
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コンパニオンアニマルとしての犬と猫
1997年10月
東京大学大学院
農学生命科学研究科・農学部教授
林良博
自然回帰

日本は現在、世界の中で、犬と猫の数が最も増えている国の一つです。これは、日本の人々が「犬や猫と一緒に暮らしたがっている」ことと、現代社会の「環境問題」が関係していると思います。環境問題というと、不思議に思われるかもしれませんが、以前、総理府が「日本人の好きな自然」をテーマに調査を行ったことがあります。その結果、日本人が好むのは、田園風景と原っぱだということがわかりました。田園風景を一枚の絵として見た場合、そこに農作業をしている人がいて、牛や馬がいて、初めて“生きた絵”になります。原っぱも同じです。野原に子どもがいて、犬がいて、植物的な自然と動物的な自然がマッチして、初めて非常に生き生きとしたものになります。現代社会では、なかなか牛や馬とは暮らせませんが、犬や猫と一緒に暮らすことは可能です。これはまさに自然回帰です。日本で犬や猫が圧倒的に増えている理由の一つは、日本人が自然を求めている−自然回帰の現象だと思われます。

これは、日本だけではなく、世界的な傾向です。人が好きな自然は、元来、原始的な自然ではなく、人がつくった田、畑や原っぱなどの人為的な、安心出来る自然です。犬や猫も人が飼い慣らした安心できる動物たちです。ですから、私たち人間は、快適に安心して暮らしていけるのだと思います。もちろん原始的な自然は残さなくてはなりません。ただ、人が暮らしていくには、ある程度人の手が入った、調和された自然がもっとも住みやすく、実際、多くの人が好きだといっています。そこには、間違いなく似合う動物、犬と猫−コンパニオンアニマル−が存在します。犬や猫を求めるのは、自然回帰が要因となっています。これは外的要因です。
心理的要因−セラピストとしての犬や猫

もうひとつの要因は、内的要因、心理的要因です。現在の日本は、子どもが少なく、お年寄りが多いという、少子高齢化社会です。犬や猫は、子どもやお年寄りにとって友達であり、心の支えとなることが少なくありません。これからの社会では、心の問題がさらに増えていくことでしょう。ごく普通の暮らしをしている私たちにとっても、犬や猫はセラピストの役割を担っていくことになるといえます。

“自然”が外側の、“心”が内側の要因で、その両面から、日本人は犬と猫を求めているのだと思います。
“Quality of Life”

現在、日本では、犬が1千万頭、猫が8百万頭を超えています。日本の人口が1億2千5百万人ですから、7、8人に1頭の割合になります。今後、まだまだ伸び続けるでしょう。そうなると、現実的な問題も増えてきます。人間とコンパニオンアニマルがより快適に暮らすためには、守らなければならない二つのルールがあります。一つは、犬や猫が嫌いな人に対する配慮です。オーナーは自覚を持って、犬や猫を管理することが大切です。もう一つは、コンパニオンアニマルに対する配慮です。犬や猫は人間社会に適応できる能力を持っていますが、人間とは違う生き物です。そのことを理解した上で尊重しなければなりません。本来の犬や猫の性質を尊重しながら、管理していくことが必要です。この二つが守られれば、犬や猫が嫌いだった人も好きになる可能性があります。犬や猫も今以上に生き生きと、本来の姿で暮らせるようになります。こうなると、“5人に1頭”の社会へと近づいていくことでしょう。人間の“Quality of Life”を向上させるために、犬や猫の“Quality of Life”を向上させる。そして、「コンパニオンアニマルと一緒に暮らして良かった」と、思うような社会を目指していきたいものです。
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