正田先生のどうぶつ物語第三回 上野動物園で暮らす老オランウータンの「モリー」
第三話 上野動物園で暮らす老オランウータンの「モリー」
上野動物園西園の不忍池のほとりに1頭の年老いたオランウータンがいます。名前はモリー。1952年生まれの49歳で、人間でいえば100歳ぐらいでしょうか。オランウータンとしては日本で最初に子どもを産み、現在は国内長寿記録を更新中。高齢なのでいつも檻の中で寝そべっていますが、人間との交流は、彼女にとって楽しみのひとつになっているようです。機嫌がいいときには、「モリー」と呼びかけると、ゆっくり起きあがり、ベッドにしていた箱をひきずって声の聞こえる方に歩いてきます。その箱を檻に立てかけ、椅子として使うと、檻の外にいる人間と目線の高さが合うので、お気に入りのポジションをとることができるのです。この体勢で、目の上に垂れ下がっているまぶたを指でつまみ、檻の外にいる人間をじっと見つめます。人を連れて、モリーのもとに行ったときは、「僕のガールフレンド」と紹介しているんですよ(笑)。

あまり知られていないことかもしれませんが、現在、上野動物園にいるオランウータンはモリー1頭だけ。かつて上野動物園にいたオランウータンも、ライオンも多摩動物園に移りました。というのも、1986年にズーストック計画がスタートしたためです。ズーストック計画とは展示動物の種の保存を目的にしたプロジェクト。オランウータンやチーターなどの繁殖は多摩動物園が担当し、ゴリラやパンダなどは上野動物園に集め、それぞれが群れの中で繁殖できるようサポートしています。ただ、モリーはズーストック計画には参加しなかったため、上野動物園に残りました。不参加の理由はすでに老齢に達していたこと。独りで檻の中で暮らしているので、「かわいそう」と言われることもありますが、年老いた動物は住む環境が変わると、とくに大きなストレスを受けます。関係者たちは、モリーが静かな老後を過ごすにはどうすればいいか、考えて下した結論でした。

今、モリーはマイペースで人間との交流を楽しんでいる様子です。私もひんぱんにモリーのもとを訪れていますし、モリーに会いに来るファンも多いようです。元気がなくて、呼んでも近くに来てくれないときは心配だし、寄ってくると嬉しいし…(笑)。展示動物をコンパニオンアニマルと見なすかどうかは、見解が分かれるところでしょうが、モリーとの交流を考えると、人の心を和ませてくれる動物園の展示動物もコンパニオンアニマル的な要素はたくさん持っているように思います。
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