郷土玩具を見てみると、福島県の「赤ベコ」、滋賀県の「ピンピン馬」など私たち日本人の身近にいた動物が題材となっていることがわかります。江戸情緒が漂うお土産品として喜ばれる「犬張子」も東京都の郷土玩具の一つです。犬は多産で安産なことから安産祈願や、子どもがすくすく育つことを願う成長祈願として庶民が求めたものだといいます。私たちがよく目にする犬張子の中には、でんでん太鼓を背負っているものや、ざるを背負っているものがありますが、これはそれぞれ意味をもっています。でんでん太鼓には麻ひもが使われているので、まっすぐに伸びる麻から「子どもがすくすく育つように」。でんでん太鼓につけられている鈴は、昔、代わりに豆が使われていました。これも「子どもがまめまめしく育つように」。ざるかぶり犬は、ざるが風を通すことから「赤ちゃんの鼻の通りをよくする」、つまり、「風邪を引かないように」という意味があったそうです。医学の発達していなかった時代、子どもが一つ病気をするだけでも命取りになりました。だから、郷土玩具をおもちゃとして与えながら、神様に守ってもらおうとしていたわけです。
私自身も「犬張子」とは縁があり、小さい頃は犬張子マークのついたスモックを着て明治神宮外苑にあった幼稚園に通っていました(笑)。通園していた幼稚園のシンボルマークだったせいか、今もなんとなく親しみを感じています。この園は早蕨幼稚園といい、園長は著名な童話作家としても知られていた久留島武彦先生。「日本のアンデルセン」とも呼ばれ、数多くの童話の読み聞かせを行っていらっしゃいましたが、戦争直前ですからなかには「童話の『桃太郎』は侵略主義的だ」と批判する動きもあったようです。でも、古い日本の文化や伝承を大切に考えていた久留島園長は抗議し、園児の保護者にむけ「桃太郎礼賛」の講演を行ったと聞きます。また、久留島先生は、戌年生まれだったので犬張子をトレードマークにしていらっしゃり、早蕨幼稚園のシンボルとしても使われたようです。
残念ながら早蕨幼稚園は戦災で焼失してしまいましたが、子供の教育に先駆的な取り組みを行い、日本の幼児教育の基礎をつくった幼稚園の一つと聞いています。犬張子のいわれを考えてみると、久留島先生が犬張子をご自身のトレードマークにされたのは戌年だったためだけではなく、児童文学や幼児教育をご自身の使命と考えていたからこそ、子供の成長を願う意味をもつ犬張子をご自身のトレードマークに選ばれたのでしょう。犬張子には日本人のさまざまな思いがこもっている、と考えると感慨も大きく、日本人と動物の関わりの深さ、面白さも透けて見えるように思います。
|
|