正田先生のどうぶつ物語第十一話 スコットランドに行った「招き猫」
第十一話 スコットランドに行った「招き猫」
昔からつくられてきた郷土玩具や動物の人形などを見ると、私たち日本人が動物をかわいがって暮らしてきたことがよくわかります。これらは日本人の動物との関わり方を表す興味深い文化のひとつだと思います。商店などに飾られている「招き猫」はその代表的な存在です。私たちにとっては見慣れたものですから、あまり注意を払うこともありませんが、海外の人々は違うようです。それがはっきりわかったのが、過日、イギリス・スコットランドのグラスゴー市で開催されたIAHAIO*主催「人と動物の関係に関する国際会議」の会場でのこと。この会議は三年に一度開かれるものですが、グラスゴー大会では日本に次回の会議を誘致するためにブースを開き、そこに招き猫を置かせていただきました。私はCAIRC会長としてこの会議の日本誘致委員長でもありましたので、ぜひ出席を、と考えていたのですが、都合で参加できなくなりました。それで、私の代わりに招き猫を持っていってもらうことにしたのです。動物学のスペシャリストをはじめ、動物にくわしい人々が集まる会議だけに、見つけてすぐ「招き猫ですね」と話し出す方や、「上げる手によって意味が違うんですよね」とかなりくわしい知識をもった方もいて、ブース周辺では日本の招き猫の話で盛り上がったようです。

そもそも招き猫は、江戸時代後期、浅草で今土焼きのものが数多くつくられたことから広がったもの。商売繁盛の縁起をかついで買い求められるもので、現在も、料亭、飲食店や商家などで大切に飾られています。海外の方も知っていた通り、お店によって、右手を上げているものと、左手をあげているものがあり、右手上げは金運を、左手上げは客を招くと言われています。グラスゴー大会に参加した招き猫は、3年後に開催されるこの会議を東京に誘致し、たくさんのお客さまに来ていただきたい、という私の気持ちを表したもの。また、海外の方々に日本文化と猫との関わりを知っていただくいい機会になる、という願いもありました。ただ、この招き猫は伝統的な今土焼きのものではなく、ちょっと変わった「からくり人形」でもあります。ボタンを押すと、「ニャーオ」と鳴きながら前脚を下ろすのですが、脚の先にはスタンプがついていて、下に置いた紙に押印する仕組み。だいぶ前にシャチハタで販売促進用品としてつくられたものだそうです。前脚のスタンプは東京誘致の意味を込めて「2007 IAHAIO TOKYO JAPAN」という文字を彫ってもらいましたので、これも評判だったようです。

実を言うと、この招き猫は、私の所有するものではなく、上野にある玉賞堂という印房の持ち物です。今年の夏、ハンコ屋さんの店頭にこの招き猫が飾られているのを見つけて、面白いな、と思って立ち止まったのが出会いでした。招き猫は、日本人と動物が密接に関わって暮らしてきたシンボルのような存在だな、と思いながら見ていました。すると店主の方が出ていらっしゃったので、お話しをさせていただきました。そのときに、この招き猫を買うことはできないか尋ねてみたんです。事情を聞いて店主の前澤さんがシャチハタに問い合わせてくださったのですが、販促品ですから現在は製造されていない。でも、「国際親善にお役に立つなら」と前澤さんがお店の招き猫を貸してくださったというわけです。

結局、2007年のIAHAIO大会は日本で開催されることが正式決定になり、グラスゴーでその発表も行われました。東京からグラスゴーに行った招き猫は大任を果たし、ハンコ屋さんの店頭にまた戻ってきています。

招き猫


*IAHAIO(International Association of Human-Animal Interaction Organizations)とは人間と動物の関係に関する団体の国際組織で、コンパニオンアニマル リサーチも参与会員となっています。(詳しくは本ホームページ「人と動物との関係学」をご参照ください)
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